昨年12月、現代企画室から「オーストラリア現代文学傑作選」としてティム・ウィントン(Tim Winton)著、佐和田敬司翻訳「ブレス:呼吸」が出版された。「オーストラリア現代文学傑作選」は、駐日オーストラリア大使館及び豪日交流基金の支援のもと、オーストラリアをベースに活動する、あるいはオーストラリア出身の同時代の作家による文学作品を、1 年に1 作品、10 年間にわたって翻訳・出版することをめざしている。
ティム・ウィントンは1960年、西オーストラリア(WA)州パース(Parth)に生まれ、少年時代を同州の地方都市アルバニー(Albany)で過ごす。大学在学中に書いた最初の小説「An Open Swimmer」(1981)でヴォ―ゲル文学賞を受賞。以降、最新作の「Eyrie」(2013)まで児童文学や戯曲を含む25冊の本を発表している。パースの下町で暮らすふたつの労働者家族の人生を描いた代表作「Cloudstreet」(1991)は、読者、作家、批評家が選ぶ複数の人気投票で長きにわたり1位を獲得しつづけており「オーストラリアで、もっとも愛されている小説作品」と見なされている。「The Riders」(1994)と「Dirt Music」(2001)で2回ブッカー賞にノミネートされるなど国外からの評価も高く、これまでにウィントンの作品は28の言語に翻訳されている。また本書「ブレス」を含む4作品で、オーストラリアで最も栄誉あるマイルズ・フランクリン文学賞を受賞した。作家活動の一方、環境保護運動にも尽力し、オーストラリアのナショナル・トラストが認定するLiving Treasureのひとり。これまでイタリア、フランス、アイルランド、ギリシャなど各地で生活してきたが、現在は故郷のWA州で家族と暮らしている。
オーストラリアでもっとも読まれている書評誌「Australian Book Review」が2010 年に実施した読者が自分の好きな小説を選ぶ人気投票で「Cloudstreet」が第1 位に輝き、本書「Breath」(第4 位)を含む3作品がベスト20 にエントリーするなど、オーストラリア随一の人気作家。その作品は児童文学から戯曲まで幅広く、映画や連続ドラマにもなっており、世代を超えて多くの人々に愛され続けている。
「ブレス:呼吸」は、オーストラリア西南部の海辺の街で、サーフィンを通じて自然と他者、そして自らの限界とぶつかっていった少年たちの息づまる日々を描く、痛切な青春の物語。はじめて広い世界に出会ったころの、傷だらけだけど宝物のような記憶がよみがえる。WA州出身のオーストラリアで最も愛されている作家が、自らの少年時代に重ねあわせて綴ったサーフィンに賭ける青春だ。